退職時の年次有給休暇

労働トラブル
人事総務担当者
人事総務担当者

1か月後に退職する従業員が、残っている30日分の年次有給休暇を使いたいと言っています。でも、引継ぎもしてもらわなければいけないし。。どうしたらいいですか?

退職時の年次有給休暇(以下、有給休暇と呼びます)について、ご質問を受ける機会は多いです。従業員としては、労働者の権利である「有給休暇」を全て使い切りたいと考えます。一方、会社としては、きちんと引継ぎをしてから退職をしてほしいと考えます。どのように対応するのがベストでしょうか。

会社は有給休暇の申請を拒否できない

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

労働基準法第39条5項

退職が決まっている従業員から有給休暇の申請があった場合、従業員が希望する日に取らせなければいけません。従業員が希望する日と異なる日に変更させる「時季変更権」は「忙しい」や「代わりの人がいない」「引継ぎ期間を確保するため」という理由では使うことが出来ません。

有給休暇を取得できるのは所定労働日のみ

従業員が「30日後に退職するので、30日分の有給休暇を取得します」と言ってきたとします。これも、会社は認める必要があるでしょうか。

有給休暇を取得できるのは「所定労働日」のみです。例えば、「土曜・日曜・祝日」が所定休日で、「月曜から金曜日」が働くべき日(所定労働日)という雇用契約の従業員であれば、有給休暇を取得できるのは、「月曜から金曜日」です。

残った有給休暇は退職後に消滅する

退職日までに有給休暇を使い切れなかった場合、その有給休暇は退職後に消滅します。「従業員のためになんとかできないか」と会社が考えるのであれば、方法は2つあります。

  1. 退職日を先延ばしにする
  2. 有給休暇の買取をする

予定していた退職日を先延ばしにして、残った有給休暇を全て消化できるようにする方法があります。この方法を取るのであれば、早めにスケジュール調整をしなければ、退職時の各種手続や給与計算に影響が出ます。

有給休暇の本来の目的は「リフレッシュや休養」です。ですので、有給休暇の買取は原則できません。
しかし、退職時に残っている有給休暇は権利が消滅しているので、買取も可能です。ただし、買取は義務ではないので、会社が「買取してあげよう」と思うのであれば買取が可能なだけであって、「残っている有給休暇の買取」を従業員が請求したとしても会社が応じる義務はありません。

引継ぎの時間が確保できない時の対応

退職する従業員が残っている有給休暇を申請し、退職日までの出社日数が少なく、引継ぎに必要な時間が確保できないケースはどのように対応したらいいでしょうか。有給休暇は労働者の権利ですので、「引継ぎの時間確保」を理由に取得を拒否することはできません。

このようなケースでは、「休日出勤」を命じることをお勧めします。休日出勤を命じるためには就業規則に下記のような規定を定めている必要があります。

業務の都合により、所定労働時間外および休日に、正社員を労働させることがある。 ただし、法定時間外労働および法定休日労働については労働基準法第36条に基づく協定の範囲内とする。
2.正社員は、会社が認める正当な理由なく、所定時間外労働および休日労働を拒むことはできない。

規定があり36協定が合法的に手続きされていれば、会社に命令権があるので、「休日出勤」をさせ、引継ぎの時間を確保することができます。

有給休暇は労働者の権利ですので、会社側も従業員が請求するままに認めてしまう場合があります。退職日、有給休暇の残日数、引継ぎに必要な時間、従業員が請求する有給休暇の取得希望日などの情報をいただければ、どのように対応するのがベストかをご提案できます。お困りの際には、埼玉のりか社労士事務所までご相談ください。